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東京高等裁判所 平成元年(ネ)334号 判決

控訴人(原告) アラーガン・インコーポレーテッド

A事件被控訴人(被告) ホーヤ株式会社

B事件被控訴人(被告) 株式会社オフテクス

原審 東京地方昭和五九年(ワ)第二九九六号(A事件、昭和六三年二月二九日判決、二〇巻一号七六頁参照)・昭和五八年(ワ)第一〇三二三号(B事件、昭和六三年一〇月二八日判決、本書二七三頁参照)

主文

本件各控訴を棄却する。

各事件の控訴費用はいずれも控訴人の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  A事件

1  控訴人

「A事件原判決(以下「A判決」という。)を取り消す。被控訴人はA判決添付の別紙目録記載の製品(以下「被控訴人A製品」という。)を製造販売してはならない。被控訴人はその所有する被控訴人A製品及びその仕掛品を廃棄しなければならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言

2  被控訴人

「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決

二  B事件

1  控訴人

「B事件原判決(以下「B判決」という。)を取り消す。被控訴人はB判決添付の別紙目録記載の製品(以下「被控訴人B製品」という。)を製造販売してはならない。被控訴人はその所有する被控訴人B製品及びその仕掛品を廃棄しなければならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言

2  被控訴人

「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほかは、A・B判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  A判決五丁表三行(編注、二〇巻一号七九頁五行目)・B判決五丁表二行(同上、本書二七四頁六行目)の次に「(一) 一般に行われているソフト・コンタクト・レンズとハード・コンタクト・レンズとの区別は、厳密な学問上の分類に基づくものではなく、ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)を素材とするコンタクト・レンズの開発(昭和四六年米国で翌四七年日本でそれぞれ使用の許可がなされた。)に伴い、従来のポリメチルメタアクリレート(PMMA)を素材とするコンタクト・レンズと区別する必要上、HEMAを素材とするコンタクト・レンズをソフト・コンタクト・レンズ、PMMAを素材とするコンタクト・レンズをハード・コンタクト・レンズと称するようになったものにすぎず、「硬い」「軟らかい」による区別であるとはいい得ても、両者の境界を一義的に画することはできないものである以上、分類基準として不明瞭である(ただし、被控訴人株式会社オフテクス提出の検乙号証に係る本判決添付・別表(一)記載の各コンタクト・レンズの材質名、メーカー名が被控訴人ら主張のとおりであること、「硬さ」「軟らかさ」で区別した場合、典型的な軟らかいレンズである検乙号証番号1のもの(HEMAからなるレンズ)及び典型的な硬いレンズである同番号6のもの(PMMAからなるレンズ)を基準とすれば、同番号2、4、7及び8のものは軟らかいレンズであり、同番号3及び3の2並びに5及び5の2ないし4のものはどちらかといえば硬いレンズであることは認める。)。」を加え、A判決五丁表四行(同上、七九頁六行目)、八丁裏一行(同上、八一頁七行目)・B事件五丁表三行(同上、二七四頁七行目)、八丁表一〇行(同上、二七五頁一九行目)の各「(一)」、「(二)」をいずれも「(二)」、「(三)」と改める。

2  A判決六丁表五行ないし六行(同上、七九頁一七行目から末行にかけて)・B判決六丁表三行ないし四行(同上、二七四頁一六行目から一七行目にかけて)の「(以下「シリコーン・ラバー・コンタクトレンズ」という。)」を削除し、A判決六丁表七行(同上、七九頁末行)・B判決六丁表五行(同上、二七四頁一七行目)の「すなわち、」の次に「右シリコーンを素材としたコンタクト・レンズとはシリコーン・ラバー・コンタクトレンズのことであるが、」を加える。

3  A判決七丁表八行(同上、八〇頁一二行目)・B判決七丁表六行(同上、二七五頁七行目から八行目にかけて)の「明らかである。」を「明らかであって、要するに、レンズの硬軟を問わず親水性基を有するコンタクト・レンズのことを指すと解すべきである。」と改める。

4  A事件八丁表一一行(同上、八一頁六行目)・B事件八丁表九行(同上、二七五頁一八行目)の次に「なお、仮に「硬い」「軟らかい」という観点からみても、A事件甲第四一号証(B事件甲第四四号証に同じ。)の二七頁の一覧表によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一種であるメニコンO2のショア硬さ数(SD)は、シリコンポリマーからなることから軟らかいシリコーン・ラバー・コンタクトレンズ(ポリジメチルシロキサンを素材とするレンズ)であることの明らかなダウコーニング社の商品名「シルコン」(SILCON)なるコンタクト・レンズと同じ八二とされていることからすれば、メニコンO2を「軟らかいレンズ」、すなわちソフト・コンタクト・レンズということも可能である。」を加える。

5  A判決一九丁裏六行(同上、八八頁一一行目)の「また、」の次に「A事件乙第五号証の表1、2に記載された洗浄効果をみても、右各表の「全要素」欄に示された被控訴人A製品の洗浄効果は「発泡剤のみ」、「界面活性剤のみ」、「酵素のみ」の洗浄効果を加算した値よりもむしろ劣っているのであるから、」を加える。

6  A判決二一丁裏一〇行(同上、九〇頁三行目)・B判決一七丁表一〇行(同上、二八〇頁一四行目)の次に「また、間接侵害の成立を妨げる他の用途を前記のように解さなければ、少なくとも、被控訴人らの製品を被控訴人ら主張のような意味の「ソフト・コンタクト・レンズ」に対して用いる購買者も多数ある筈であり、かつ、被控訴人らにおいてもその実施を勧奨、宣伝しているものであるにもかかわらず、控訴人としては、購買者に対して直接差止め等を求めることも、不法行為(教唆・幇助)を理由として被控訴人らの責任を追求することもできず、何らの救済も得られないことになるのであって、その意味でも右の他の用途は前記のように解されなければならない。」を加える。

7  A判決二二丁裏一〇行(同上、九〇頁一六行目)・B判決一八丁裏三行(同上、二八一頁七行目)の次に「なお酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの存在は、本件発明の出願当時には未だ知られていなかったため(わが国での発売開始は昭和五四年である。)、当然ながら本件明細書にもそれに関する記載は存在せず、したがって、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正或いは明瞭でない記載の釈明に限定される特許法六四条の規定による出願公告後の補正に際し、控訴人において、「コンタクト・レンズ」との用語を酸素透過性ハード・コンタクト・レンズをも包含するように補正することはそもそも不可能であった。」を加える。

二  被控訴人ら

A判決一三丁裏四行(同上、八四頁一四行目)・B判決一一丁裏三行(同上、二七七頁一四行目)の次に「なお、被控訴人株式会社オフテクス提出の検乙号証に係る現在市販されているコンタクト・レンズのメーカー名、材質名、各物性(吸水性(含水性)、親水性及び酸素透過性)及びハード・コンタクト・レンズとソフト・コンタクト・レンズとの分類は本判決添付・別表(一)記載のとおりであり、このうち、検乙号証番号5及び5の2ないし4のものが典型的な酸素透過性ハード・コンタクト・レンズで、検乙号証番号5のうち淡青色のものが東洋コンタクトレンズ株式会社の販売するメニコンO2である。」を加える。

三  被控訴人ホーヤ株式会社

1  A判決一一丁表九行(同上、八三頁六行目)の次に「なお、控訴人は、A事件乙第五号証の表1、2からは被控訴人A製品に相乗効果があるとは認められない旨主張するが、右表1は、本件発明によっては殆ど洗浄効果の期待できない「複合汚れ」に関するものであるし、また、「蛋白汚れ」に関する表2についてみても、その二四時間後の回復率(%)は、酸素、界面活性剤、発泡剤が単独の場合はそれぞれ一〇・五、二・五、一・六であるのに対し、三要素を組合わせた場合はその合計一四・六よりはるかに多い二二・五と、明らかに相乗効果が認められるものである。」を加える。

2  A判決一五丁裏八行(同上、八六頁二行目)の次に「なお、控訴人は、A事件甲第四一号証(B事件甲第四四号証に同じ。)の二七頁の一覧表に記載された酸素透過性ハード・コンタクト・レンズであるメニコンO2とダウコーニング社の「シルコン」のショア硬さ数(SD)が同じであることを根拠として、メニコンO2を「軟らかいレンズ」すなわちソフト・コンタクト・レンズということも可能である旨主張するが、A事件乙第七号証の一ないし三、第一一号証の一、二等によれば、シリコンポリマーからなるコンタクト・レンズにも軟らかいものと硬いものがあり、シリコーン・ラバー・コンタクトレンズが軟らかいレンズであるのに対し、「シルコン」なるコンタクト・レンズは架橋密度の高い一〇〇%硬質のシリコーン樹脂からなる硬いレンズであることが明らかであるから、右「シルコン」がシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズであることを前提とする控訴人の主張は前提において既に失当である。」を加える。

3  A判決一七丁裏一一行(同上、八七頁八行目)の次に「なお、控訴人は、本件発明の出願当時には酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの存在は知られていなかったため、本件明細書にもそれに関する記載は存在せず、したがって、前記補正に際して「コンタクト・レンズ」との語を酸素透過性ハード・コンタクト・レンズをも包含するように補正することはできなかった旨主張するが、この主張は本件発明が当初から酸素透過性ハード・コンタクト・レンズを含んでいなかったことを自認していることにほかならず、この点からも、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」に含まれないことは明らかというべきである。」を加える。

四  被控訴人株式会社オフテクス

B判決一四丁表九行(同上、二七九頁一行目)の次に「(二) 本件発明においては、まず第一に、ソフト・コンタクト・レンズの形質を前提とし、そのうちに親水性すなわち吸水性を有するものがある故に発明が成り立っているのであるから(なお、本件明細書にいう「親水性」とは、水濡れ性の意味ではなく吸水性の意味で用いられているものである。)、硬質(ハード)コンタクト・レンズはもともと本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」に該当しない。ソフト・コンタクト・レンズというのは眼科のクリニカル領域での事柄であって、その柔軟性により目にフィットするという常識的な概念であり、ハード・コンタクト・レンズとの間の識別は十分に可能なのである。また、控訴人は、B事件甲第四四号証(A事件甲第四一号証に同じ。)の二七頁の一覧表に記載された酸素透過性ハード・コンタクト・レンズであるメニコンO2とダウコーニング社の「シルコン」のショア硬さ数(SD)が同じであることを根拠として、メニコンO2を「軟らかいレンズ」すなわちソフト・コンタクト・レンズということも可能である旨主張するが、A事件乙第七号証の一ないし三、第一一号証の一、二等によれば、シリコンポリマーからなるコンタクト・レンズにも軟らかいものと硬いものがあり、シリコーン・ラバー・コンタクトレンズが軟らかいレンズであるのに対し、「シルコン」なるレンズは架橋密度の高い一〇〇%硬質のシリコーン樹脂からなる硬いレンズであることが明らかであるから、右「シルコン」がシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズであることを前提とした控訴人の主張は前提において既に失当である。」を加え、B判決一四丁表一〇行(同上、二七九頁二行目)、同丁裏一〇行(同上、二七九頁七行目)の「(二)」、「(三)」をそれぞれ「(三)」、「(四)」と改める。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  A・B事件の請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがなく、A・B事件の請求の原因3(一)の事実は、A事件については当事者間に争いがなく、B事件についても右争いのないB事件の請求の原因2の事実と成立に争いのないB事件甲第一及び第二二号証(A事件甲第一、第二号証に同じ。)によってこれを認めることができる。また、A・B事件の請求の原因4の事実もハード・コンタクト・レンズが使用対象レンズに含まれるか否かの点を除き当事者間に争いがない。

(A・B事件の各書証中、別表(二)の(1)記載のものは原本の存在及び成立に争いがなく、その余はいずれも成立に争いがない。また甲号証中、同表の(2)記載のものはA事件とB事件とで同一内容であるから、以下、A事件の書証番号のみで表記する。)

二  控訴人は被控訴人A及びB製品(以下、これらを総称するときは「被控訴人ら製品」という。)が特許法一〇一条二号所定の本件発明に係る方法の実施にのみ使用する物である旨主張し、被控訴人らはこれを争うので判断する。

1  前記当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載によれば本件発明の使用対象レンズが「ソフト・コンタクト・レンズ」に限定されるものであることは明らかであり、また被控訴人ら製品が酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの洗浄にも使用される洗浄剤であることも、当事者間に争いがない。

2  そこでまず、右酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」に含まれるか否かを検討する。

(一)  甲第一、第二号証によれば、本件明細書における発明の詳細な説明の項には、特許請求の範囲記載の「ソフト・コンタクト・レンズ」に関し、冒頭の「所謂ソフト・コンタクト・レンズを作るのに使う親水性又は物分的(「部分的」の誤記と認める。)に親水性のプラスチック材料が提案されている。」との記載に続き、その具体例として、弾力的で軟らかく透明なヒドロゲルの外観を持つ水性反応媒質中のポリヒドロキシエチルメタクリレート(以下「HEMA」と略称する。)の三次元的な親水性重合体、又はシリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料で作られたレンズを挙げたうえ、これらのレンズの主な利点が軟らかさ並びに光学的な適性を有する点にあるとしていること、本件明細書記載の実験例又は実施例もすべて右HEMAを素材とするソフト・コンタクト・レンズ(バウシュ・アンド・ロム社の商品名「ソフレンズ」)を使用してなされており、他方、本件明細書中には特許請求の範囲記載の「ソフト・コンタクト・レンズ」に硬いレンズが含まれることを示唆するような記載は全くないことが認められる。

(二)  また、A事件乙第八号証の一ないし八によれば、厚生省薬務局監修に係る昭和五八年一〇月一日発行の「医療用具の一般的名称と分類」と題する文献では、ハード・コンタクト・レンズは「親水性並びに非親水性のプラスチック材料で作られた(主に非含水性)硬いレンズ」、ソフト・コンタクト・レンズは「親水性並びに非親水性のプラスチック材料で作られた(主に含水性を有する)軟らかいレンズ」と定義されていることが認められるほか、A事件乙第七号証の一ないし三(一九八四年六月発行の「光学」に構成された阿南尚樹著の「コンタクトレンズの現状と将来」)(B事件甲第四二号証の一ないし三に同じ。以下、この書証については、単にA事件の乙号証番号のみで表記する。)、A事件乙第一一号証の一、二(昭和五六年六月発行の「日本コンタクトレンズ学会誌」に掲載された岡本洋政外二名著の「化学的親水処理を施したシリコーンハードコンタクトレンズの基礎ならびに臨床研究」)、B事件乙第一七号証(昭和六三年一一月一日四六三版発行の濱野光著「コンタクトレンズ」)、B事件乙第二〇号証(昭和五九年九月発行の「日本コンタクトレンズ学会誌」に掲載された増原英一著の「コンタクトレンズ材料の進歩と将来」)の各文献においてもほぼ同じような定義ないし分類がなされていることが認められることに徴すれば、ハード・コンタクト・レンズとソフト・コンタクト・レンズとの分類は一般に当業者間で行われ通用してきたものであり、その場合、コンタクト・レンズの材質ないし形質の硬軟により硬いレンズをハード・コンタクト・レンズ、軟らかいレンズをソフト・コンタクト・レンズとして区別してきたものであることが認められる。もっとも、以上の文献はいずれも本件発明の出願後のものであるが、これらの文献によっても、ポリメチルメタアクリレート(以下「PMMA」と略称する。)を素材とする典型的な硬いレンズとHEMAを素材とする典型的な軟らかいレンズの二種類しか市販(A事件乙第七号証の一ないし三によれば、日本における発売時期は、前者が昭和三三年以降、後者が昭和四七年以降であることが認められる。)されていなかった本件発明の出願(優先権主張により昭和四八年四月二〇日まで遡及)以前から、ソフト・コンタクト・レンズとハード・コンタクト・レンズという分類は、文字どおりレンズの硬軟による分類であったのであり、その後、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズ等の新たなコンタクト・レンズが開発、市販された後も(A事件の前掲乙第七号証の一ないし三によれば、日本における酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの発売時期は昭和五四年であることが認められる。)、一貫して右と同一意義の分類として通用してきたものであることが窺えるところであって、本件全証拠によるもこれに反する資料は見出せない。

(三)  そして、前記(一)認定に係る本件明細書の発明の詳細な説明の項冒頭の「所謂ソフト・コンタクト・レンズ」との記載からすれば、本件明細書においても、「ソフト・コンタクト・レンズ」との用語を本件発明の出願当時における通常の意味で使用していることが窺われるから、本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」との用語は、少なくとも一般的用例、すなわちハード・コンタクト・レンズに分類される「硬いレンズ」に対し「軟らかいレンズ」という意味を有するものとして用いられていることは明らかというべきであり、そうである以上、一般にハード・コンタクト・レンズに分類される「硬いレンズ」はこれに含まれないものと解さざるを得ない。

(四)  他方、甲第三八号証及びB事件乙第七号証並びに前掲A事件乙第七号証の一ないし三、A事件乙第一一号証の一、二及びB事件乙第二〇号証に弁論の全趣旨を総合すれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズには、PMMAとシロキサンとの共重合体からなるレンズ(別表(一)の検乙号証番号5及び5の2ないし4のものがこれに該当する。)のほかセルロースアセテートブチレートからなるレンズ(同表の検乙号証番号3及び3の2のものがこれに該当する。)等があるが、これらはいずれもハード・コンタクト・レンズに分類されるのが一般であることが認められ、少なくともこれをソフト・コンタクト・レンズに分類したり又はこれがソフト・コンタクト・レンズであることを前提とする記述をした例は本件全証拠によるも一例も見当たらない。そして、甲第二〇号証の一ないし三によれば、前掲各証拠中でソフト・コンタクト・レンズに分類されるHEMAからなるコンタクト・レンズやシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズ等が計測できないほど軟らかいのに対し、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一種であるメニコンO2(東洋コンタクトレンズ株式会社の販売に係るPMMAとポリシロキサニルメタクリレートとの共重合体を素材とするレンズ)の硬度(ヴィッカース硬度は)、Dryで八・六、Wetで七・六(なお、PMMAからなる典型的なハード・コンタクト・レンズの硬度はDryで二三・〇、Wetで二一・三)であることが認められ、また、控訴人においても、現在市販されているコンタクト・レンズの相当数を集めたものと解される別表(一)記載のコンタクト・レンズ(各コンタクト・レンズの材質名、メーカー名については当事者間に争いがない。)を「硬い」「軟らかい」で区別した場合、典型的な軟らかいレンズである検乙号証番号1のもの(HEMAからなるレンズ)と典型的な硬いレンズである同番号6のもの(PMMAからなるレンズ)を基準にすれば、同番号2、4、7及び8のもの(前掲A事件乙第七号証の一ないし三及びB事件乙第二〇号証によれば、いずれもソフト・コンタクト・レンズに分類されるものであることが認められる。)は軟らかいレンズであり、前記のとおり酸素透過性ハード・コンタクト・レンズに該当する検乙号証番号3及び3の2並びに5及び5の2ないし4のものは硬いレンズであることを認めていることに照らしても、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが「硬いレンズ」であるハード・コンタクト・レンズに属するものであることは明らかといわなければならない。

(五)  以上によれば、本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」に該当するというためには、後に触れる吸水性(含水性)、親水性、本件発明の課題等の関連を別にしても、少なくとも「軟らかいレンズ」でなければならず、「硬いレンズ」としてハード・コンタクト・レンズに分類される酸素透過性ハード・コンタクト・レンズはこれに該当しないと解すべきであるから、被控訴人ら製品の使用対象レンズの一つである酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」に含まれないことは明らかである。

(六)  この点に関し、控訴人はソフト・コンタクト・レンズとハード・コンタクト・レンズとの区別はその境界が明らかではなく、「硬い」「軟らかい」というだけでは分類基準として不明瞭である旨主張する。しかしながら、前記(二)掲記の各証拠並びに甲第一〇号証の記載に徴すれば、右分類は、もともと定量的観点からの分類というよりも、装着時における異物感の有無等との関係からレンズの硬軟を問題とするもので、いわば定性的観点からの分類であることが窺われるし、また前記(四)認定のように、ハード・コンタクト・レンズに分類されるレンズが一定の硬度を持つのに対し、一方のソフト・コンタクト・レンズに分類されるレンズは計測ができないほど軟らかく、控訴人ですら別表(二)記載のすべてのコンタクト・レンズについて硬軟を区別し得ていることに徴すれば、実際には両者の測定値が近接しその境界値を明らかにしなければ属否が決しがたいようなことはなく、定性的にも十分にこれを識別し得るものと認められるのであり、むしろその故にこそ右分類は、前記(二)認定のように、PMMAやHEMAを素材とするレンズに代わる酸素透過性ハード・コンタクト・レンズという新たなコンタクト・レンズの出現後も一貫して分類基準として通用してきたものと考えられるのである。したがって、この点に関する控訴人の主張は採用できない(因に検証物として提出された別表(一)記載のレンズについて、前記のような硬軟の差は触覚により十分判別し得るところであり、硬軟のいずれに分類すべきかについて迷うようなものは全くないことを付言しておく。)。

(七)  なお、控訴人は、甲第四一号証の一覧表では、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一種であるメニコンO2のショア硬さ数(SD)が、シリコンポリマーからなることから軟らかいシリコーン・ラバー・コンタクトレンズ(ポリジメチルシロキサンを素材とするレンズ)であることの明らかなダウコーニング社の「シルコン」(SILCON)と同じ八二とされていることからすれば、メニコンO2を「軟らかいレンズ」すなわちソフト・コンタクト・レンズということも可能であるとも主張しているが、該主張は右「シルコン」がシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズであることを前提とするものであるところ、前掲A事件乙第一一号証の一、二によればシリコーンからなるコンタクト・レンズにも硬いものと軟らかいものがあることが認められること、前掲甲第三八号証によってもダウコーニング社はシリコーンからなるシリコンエラストマーレンズ(シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズと解される。)とハード樹脂レンズの両方を販売していることが認められ、甲第一二号証にも「シルソフト(Silsoft)コンタクトレンズは…シリコンエラストマー材料から作られるシルコン(Silcon)コンタクトレンズは、100%シリコン樹脂光学ポリマーから作られる。」との記載があること、また、A事件乙第一二号証には「シルコンは入手できる唯一の親水性ハードレンズである」との記載が認められることに徴すれば、前記「シルコン」はむしろシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズではないことが窺われるというべきであるから(他に前掲甲第四一号証の一覧表記載の「シルコン」がシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズを指すことを確認するに足りる証拠はない。)、右控訴人の主張はその前提において既に採用しがたいものといわざるを得ない。

3  そして、前掲甲第二〇号証の一ないし三及びB事件乙第一七号証によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、酸素透過係数がHEMAを素材とするソフト・コンタクト・レンズと同程度に高く、材質ないし形質が硬いため、角膜の代謝を阻害することのより少ないコンタクト・レンズとして、商品化されて以来高い評価を受け、現在ではむしろコンタクトレンズ処方の主流をなしていることが認められるのであるから、被控訴人ら製品の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズへの用途は、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な用途であると認めることができる。控訴人は、間接侵害の成立が妨げられるためには、新たに開発された用途が社会経済的にみて従来の用途とは明らかに別異の用途といい得る場合であることを要すると解すべきであり、そうでなければ控訴人としては何らの救済も得られないことになるとしたうえ、被控訴人ら製品の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズへの用途はかかる意味での別異の用途とはいえない旨主張するが、前記1認定のとおり、本件発明はその特許請求の範囲において使用対象レンズを「ソフト・コンタクト・レンズ」に限定し、その点を必須の構成要件とするものであるところ、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」に該当すると解する余地のないことは前記2で認定説示したとおりである以上、被控訴人ら製品の酸素透過性レンズへの使用は本件発明の右必須の構成要件を欠き、その「ソフト・コンタクト・レンズ」への使用とは別異の用途というべきことは明らかであるから、この点に関する控訴人の主張も採用しがたい。

4  そうであれば、被控訴人ら製品は本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」とは異なる酸素透過性ハード・コンタクト・レンズにも使用される洗浄剤であるということができるから、この点において、本件発明の実施にのみ使用されるものということはできない。

5  もっとも、控訴人は本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」は硬軟にかかわらず親水性基を持つコンタクト・レンズを意味し、被控訴人ら製品の使用対象レンズの一つである酸素透過性ハード・コンタクト・レンズをも含む旨主張するところ、その根拠とするところは、本件明細書には、本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」が「親水性又は部分的に親水性のプラスチック材料」を用いたレンズである旨明確に定義されており、その例としてはHEMAを素材とするレンズのみならず「シリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料で作られたレンズ」も掲げられていること、右のうち「シリコーン…で作られたレンズ」とは具体的にはシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズのことで、これは疎水性材料に親水性処理を施して表面に親水性基を形成したものであるから、右定義にいう「部分的に親水性のプラスチック材料」に該当すること、本件発明は、「ソフト・コンタクト・レンズ」における二つの問題点、すなわち、水を吸収するために洗浄剤がレンズ内に溜まってレンズの物理的特性に悪影響を与え、更には洗浄剤の成分が濃縮されることにより装用者の眼に害を及ぼすことがあり(以下「第一課題」という。)また、装用に伴って通常の洗浄方法では除去し得ないような汚れ(涙液中のリゾチームを主成分とする蛋白質沈積物)が表面に沈積しレンズが不透明になる(以下「第二課題」という。)という点の解決を課題とするところ、前記のように表面のみに親水性基を形成したシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズが本件発明の使用対象レンズとして示されていることからも明らかなように、右第一課題は親水性基を有することにより僅かでも吸水性(含水性)を持つに至ったような場合をも含むと解すべきであること、そして、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは親水性基を有するレンズであって、前記第一及び二課題を有し、また、本件発明の方法によりこれらの課題を解決できるものであること、以上の点にあるものと解される。

しかしながら、前記2で認定説示したとおり、本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」は少なくとも「軟らかいレンズ」である必要がある以上、控訴人主張のように、親水性基を有しさえすればその硬軟を問わずこれに含まれるというような本来の字義に明らかに反する解釈は到底採り得ないところである。この点において控訴人の主張は既に採用しがたいところであるが、控訴人は、シリコーンで作られたレンズとの対比、本件発明の課題等の関連で右の主張を維持するので、レンズの硬軟とは別の観点から検討することとする。本件明細書(前掲甲第一、第二号証)には控訴人主張の第一及び第二課題が記載され、前記第一課題について「こう云うソフト・コンタクト・レンズに関連した一つの問題は、その洗浄方法である。こう云う親水性ソフト・コンタクト・レンズが一五〇重量%までの水を吸収することが出来るという性質の為に、他の場合には洗浄の為に使うことが出来る組成物が吸収され、濃縮さえされ、ソフト・コンタクト・レンズを目にはめた時、後で放出される。この放出は吸収よりずっと遅いことがあり、その為、洗浄剤が次第にレンズ内に溜まる。このように溜まったことにより、遂には寸法、色等を含めてレンズの物理的な特性に影響が出る。これはコンタクト・レンズ自体を傷つけ又は汚し、或いは結膜及び角膜の傷つき易い組織を傷めるという有害な結果を招くことがある。」(本件公報2欄一七行ないし三〇行)と記載があることが認められるところ、右記載によれば、第一課題が親水性ソフト・コンタクト・レンズの有する吸水性(含水性も同じ)という性質のために生ずるレンズ内部への洗浄剤の吸収、滞留等に起因する問題点をいうものであることは明らかであり、そうである以上、仮に若干の吸水性があるとしても、問題となるようなレンズ内部への洗浄剤の吸収、滞留が生じないようなものは該課題を有するものとはいえないものと解すべきである。この点につき、控訴人は、本件明細書中に「ソフト・コンタクト・レンズ」の例としてシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズが挙げられている点を強調するが、本件明細書にいう「シリコーン…から作られたレンズ」が控訴人主張のとおりのものであるとしても、このようなレンズにおいては本件発明が解決課題とするレンズ内部への洗浄剤の吸収、滞留等の事態が殆ど生じ得ないことは明らかであるから、むしろ、かかるレンズは第一課題を欠くものと解すべきであって(かかるレンズを本件発明に係る洗浄方法の対象となるソフト・コンタクト・レンズとして例示した本件明細書の記載の相当性こそ問われるべきであるが、この点は暫く措くとして)、控訴人主張のように、そのことから逆に、表面のみに親水性基を有するようなレンズであっても第一課題を有するものと解することはできない。また第二課題との関係でみても、本件明細書(前掲甲第一、二号証)の記載によれば、本件明細書中にはコンタクト・レンズの「親水性又は部分的に親水性」という性質と第二課題でいう通常の洗浄剤では除去し得ないような蛋白質が沈積することとの間の因果関係が明示されているとはいえず(当時の技術水準から右因果関係が記載されているものと認むべき資料も本件記録中に見出せない。)、また、本件明細書においては「親水性」という用語自体、親水性基を有し水と親和するというより、むしろ前記吸水性(含水性)に近い意味で用いられていることが窺われることに徴すれば、第二課題に関する記載をもって本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」を親水性基を有するレンズ一般を指すものと解する根拠とすることもできない。

そして、前掲甲第二〇号証の一ないし三によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一種であるメニコンO2は、疎水性材料の表面のみを親水性処理したものであって、その吸水率も、本件発明の「ソフト・コンタクト・レンズ」に含まれるHEMAを素材とするレンズが四三ないし六七重量%であるのに対し、ハード・コンタクト・レンズの一・三重量%とほぼ等しい一・四重量%にすぎないことが認められ、セルロースアセテートブチレートを素材とする酸素透過性ハード・コンタクト・レンズにしても、前掲甲第三八号証によれば二、三%の水分を含有するのみであることが認められるから、むしろ、これらの酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、親水性基を有するものとしても吸水性(含水性)が極めて低い点で本件発明の第一課題を欠くものというべきである。このような解釈は、A事件乙第六号証によれば、本件発明の出願公告後の異議において、異議申立人が、公告された出願に係る発明、すなわち「コンタクト・レンズ」をプロテアーゼ含有の水溶液と接触させることによりレンズ上に沈積した蛋白質を除去する方法は公知技術から容易に推考し得たことにすぎない旨述べたのに対し、控訴人において、後記のように特許請求の範囲記載の「コンタクト・レンズ」との用語を「ソフト・コンタクト・レンズ」と補正するとともに、異議答弁書中で、右補正に係る「ソフト・コンタクト・レンズ」について「親水性コンタクト・レンズで多孔質であり、水分を一五〇%まで吸収する性質を有する」と定義したうえ、それを前提に前記第一課題との関係で本件発明の進歩性を強調していることが認められるところからも裏付けられるものである。

そうであれば、前記控訴人の主張は採用しがたいものというほかない。

6  更に控訴人は、本件発明の「ソフト・コンタクト・レンズ」はその均等物をも含む旨主張しているが、本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」は、「軟らかいレンズ」で、かつ吸水性(含水性)に起因してレンズ内部に洗浄剤が吸収、滞留等するとの課題を有するものでなければならないところ、少なくともメニコンO2等の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズがそのいずれにも該当しないことは既に認定説示したとおりである以上、両者を均等物とみる余地はない。この点に関する控訴人の主張の重点は、本件発明の洗浄方法と被控訴人ら製品による洗浄方法が同一のメカニズムにより同一の作用効果を奏し得るとする点にあるものと解されるが、右のとおり酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは本件発明の課題の一部を有さないから控訴人の主張は既にこの点で失当たるを免れないし、第二課題との関係でみても、本件明細書(前掲甲第一、第二号証)の全記載に徴しても、そこにいう通常の洗浄剤では除去し得ないような蛋白質の沈積が本件発明の「ソフト・コンタクト・レンズ」のいかなる性質に由来するのか明示しているものとは認められず(親水性との関係では前記した。)、また、本件全証拠によるも、本件発明の出願当時、右の蛋白質沈積をもたらす本件発明の「ソフト・コンタクト・レンズ」の性質が当業者間に自明であったと認めるに足りる証拠もないのであるから、その後出現する新たなコンタクト・レンズにどのような性質があれば同様の現象が生じ得るのかを当業者が自明の事柄として予測し得たものとすることはできず、そうである以上、その後に開発された新たなコンタクト・レンズにたまたま同様の現象が生じ、かつ本件発明の洗浄方法が有効であることが判明したとしても、そのこと故に、これを本件発明の使用対象レンズの均等物と解することはできない。加えて、前掲A事件乙第六号証によれば、控訴人は、本件発明の出願広告(昭和五三年一二月二三日)後である昭和五五年三月七日、本件明細書の特許請求の範囲につき、従来「コンタクト・レンズ」の洗浄方法について特許を求めていたものを「ソフト・コンタクト・レンズ」の洗浄方法として補正したことが認められるところ、前掲A事件乙第七号証の一ないし三及びB事件乙第七号証によれば、右補正の時点では、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが一般に知られ、日本でも既に市販されていたことが認められ、また該レンズが一般にハード・コンタクト・レンズに分類されるものであることは既に認定したとおりであるから、右補正は、かかるレンズが存在するにもかかわらず、敢えて「コンタクト・レンズ」との用語を「ソフト・コンタクト・レンズ」と補正したものとして、たとい右補正が控訴人主張のとおり明瞭でない記載の釈明であるとしても、これにより酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが本件発明の使用対象レンズには含まれないことを明らかにしたものといわざるを得ない。この点に関しても、控訴人は、本件発明の出願当時には酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの存在は未だ知られておらず本件明細書にそれに関する記載は存在しないため出願公告後の補正においてこれを包含するように補正することは不可能であった旨主張するが、そのように出願当時未だ存在が知られていなかったため、出願公告後において補正不可能な領域についてまで出願発明の技術的範囲に含ませようとすること自体不当であることは明らかである(のみならず、控訴人の立場によれば、本件明細書の「ソフト・コンタクト・レンズ」には親水性基を有するとの理由で酸素透過性ハード・コンタクト・レンズも含まれる筈であるから、特許庁における許否はいざ知らず、何らかの表現によりこれを包含するように補正しようとする試みがなされてもよいことが予想されるのに、そのような試みがなされたことを認めるに足りる証拠もないのである。)。

三  以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する各請求を棄却したA及びB判決はいずれも相当というべく、本件各控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し、各事件の控訴費用につき民事訴訟法九五条、八九条、上告のための附加期間につき同法一五八条二項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松野嘉貞 舟橋定之 小野洋一)

別表(一)

検乙号証

分類

吸水性(含水性)

親水性

酸素透過性

材質名

メーカー名

1

ソフト

ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)

ボシュロムジャパン

2

ソフト

メチルメタアクリレート/N―ビニルピロリドン

東レ

3

ハード

×

セルロースアセテートブチレート

3 京都コンタクトレンズ

3の2

ハード

×

上に同じ

3の2 チバビジョンケア

4

ソフト

×

×

ポリジメチルシロキサン(シリコーン・ラバー)

日本コンタクトレンズ製造

5

ハード

×

×

ポリメチルメタアクリレート/シロキサン

5 (淡青)東洋コンタクトレンズ

ハード

×

×

上に同じ

(緑)国際コンタクトレンズ

5の2

ハード

×

×

上に同じ

5の2 シードコンタクト

5の3

ハード

×

×

上に同じ

5の3 シンテックス

5の4

ハード

×

×

上に同じ

5の4 ユニバースオプティック

6

ハード

×

×

×

ポリメチルメタアクリレート(PMMA)

国際コンタクトレンズ

7

ソフト

×

ブチルアクリレート/ブチルメタアクリレート

リッキーコンタクトレンズ

8

ハード

グリセリルメタアクリレート

シンテックス

別表(二)

(1) いずれもA事件の、甲第7号証、第8号証の1ないし7、第9号証の1ないし8、第11号証の1ないし3、第12号証、第13号証、第16号証の1ないし3、第18号証の1ないし3、第22号証の1ないし3、第23号証の1、2、第24ないし第26号証、第27ないし第29号証の各1、2、第30号証の1ないし3、第33ないし第35号証、第36号証の1ないし15、第37号証の1ないし3、第38号証、第39号証の1、2、第40号証、乙第4号証、第6号証、第7号証の1ないし3、第8号証の1ないし8、第9号証の1ないし4

いずれもB事件の、甲第19ないし第21号証の各1ないし3、第23号証の1、2、第24ないし第26号証、第27ないし第29号証の各1、2、第30号証の1ないし3、第33ないし第35号証、第36号証の1ないし15、第37号証の1ないし3、第38号証、第39号証の1、2、第40号証、第42号証の1ないし3、第44号証、乙第16号証

(2)

A事件・甲号証

B事件・甲号証

A事件・甲号証

B事件・甲号証

A事件・甲号証

B事件・甲号証

A事件・甲号証

B事件・甲号証

A事件・甲号証

B事件・甲号証

1

左に同じ

13

15

23―1、2

左に同じ

31―1、2

左に同じ

39―1、2

左に同じ

2

22

14

11

24

左に同じ

32

左に同じ

40

左に同じ

3

左に同じ

16―1~3

19―1~3

25

左に同じ

33

左に同じ

41

44

8―1~7

7―1~7

17

左に同じ

26

左に同じ

34

左に同じ

9―1~8

8―1~8

18―1~3

20―1~3

27―1、2

左に同じ

35

左に同じ

10

18

20―1~3

16―1~3

28―1、2

左に同じ

36―1~15

左に同じ

11―1~3

13―1~3

21

12

29―1、2

左に同じ

37―1~3

左に同じ

12

14

22―1~3

21―1~3

30―1~3

左に同じ

38

左に同じ

原審判決(B事件)の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告は、別紙目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造販売してはならない。

2 被告は、被告の所有する被告製品及びその仕掛品を廃棄しなければならない。

3 訴訟費用は、被告の負担とする。

4 仮執行の宣言

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求の原因

1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している。

特許番号  第一〇九七五八六号

発明の名称 コンタクト・レンズから蛋白質沈積物を取去る方法

出願日   昭和四九年四月二〇日(一九七三年四月二〇日及び一九七四年三月四日にアメリカ合衆国でした各特許出願に基づく優先権を主張)

公告日   昭和五三年一二月二三日

登録日   昭和五七年五月一四日

2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(昭和五五年三月六日付手続補正書によって補正したもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次の(一)及び(二)のとおりである(以下(一)記載の発明を「本件発明(一)」、(二)記載の発明を「本件発明(二)」という。)。

(一) ソフト・コンタクト・レンズを洗浄するのに十分な期間の間、有効量のプロテアーゼを含有する水溶液とソフト・コンタクト・レンズとを接触させることからなるソフト・コンタクト・レンズから蛋白質沈積物を除去する方法。

(二) 該水溶液が更に活性化有効量の非毒性サルファヒドリル基含有化合物を含んでいる右特許請求の範囲(一)記載のソフト・コンタクト・レンズから蛋白質沈積物を除去する方法。

3(一) 本件発明(一)及び(二)の構成要件は、右の特許請求の範囲の記載のとおりである。

(二) 本件発明は、ソフト・コンタクト・レンズの面上に沈積し、通常のデイリークリーナーによっては除去しえない蛋白質沈積物を除去する方法に関する発明である。ところで、蛋白質は、アミノ酸がペプチド結合によって多数結合した天然高分子化合物であるところ、本件発明で用いるプロテアーゼは、蛋白質に作用してペプチド結合の分解を促進する酵素であって、ソフト・コンタクト・レンズの物理的性質に影響を与えず、また毒性もなく、ソフト・コンタクト・レンズの面上に付着している蛋白質沈積物を容易かつ完全に除去して、レンズの白濁を取り除く作用を有している。

4 被告は、被告製品を業として製造販売しており、製造販売の目的で被告製品及びその仕掛品を所有している。

5 被告製品は、本件発明のプロテアーゼに当たる中性プロテアーゼを全成分中に二・一七パーセント含むコンタクト・レンズ洗浄用錠剤である。そして、被告製品の使用法は、定期的に週一回、その錠剤を蒸溜水を入れた二個のバイアルに各一錠あて入れて水溶液を作り、これにコンタクト・レンズを左右一個あて入れて一晩(四時間以上)浸漬することとされており、これにより、デイリークリーナーによる毎日の洗浄によっては除去しえない蛋白質沈積物によるコンタクト・レンズの白濁や黄変を除去するのである。したがって、被告製品は、特許法一〇一条二号所定の本件発明の実施にのみ使用する物である。

6 なお、被告製品の使用対象であるコンタクト・レンズは、ソフト・コンタクト・レンズと酸素透過性ハード・コンタクト・レンズであるが、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズも、次に述べるとおり、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに当たる。

(一) 本件明細書には、「所謂ソフト・コンタクト・レンズを作るのに使う親水性又は部分的に親水性のプラスチック材料が提案されている。」(本判決添付の「特許法第六四条の規定による補正の掲載」のとおり補正された同添付の特許公報(以下「本件公報」という。)一頁一欄三六行ないし二欄一行)と記載され、右「親水性又は部分的に親水性のプラスチック材料」の例として、「ポリヒドロキシエチルメタクリレートの三次元的な親水性重合体」(本件公報一頁二欄五行ないし六行)のほかに、「シリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料で作られたレンズ」(同一頁二欄八行ないし九行)が挙げられている。また、本件明細書には、本件発明の解決課題として、第一に、ソフト・コンタクト・レンズは、水を吸収するために、洗浄剤がレンズ内に溜まってレンズの寸法や色を損ない、また、眼の組織を痛めやすく、更には、洗浄剤の成分が濃縮されることによって、装用者の眼に損傷を与えることがあること、第二に、ソフト・コンタクト・レンズは、装用を続けることによって、通常の洗浄方法では除去することができない汚れがレンズの表面に沈積してレンズが不透明になることを挙げているところ、本件明細書に開示されているシリコーンを素材としたコンタクト・レンズ(以下「シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズ」という。)も、右の二つの解決課題を有するものである。すなわち、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、酸素の透過性は最も優れていて、吸水性は少なく、軟らかいが、反発弾性が強く、光学性も非常に優れている。ただ、シリコーンは、それだけでは、面が疎水性であり、水濡れが悪く、コンタクト・レンズとして眼内に装用すると、刺激が強く、光学性が悪いという欠点があるので、その表面に親水性処理が施され、部分的に親水性のものにして実用に供される。このように、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、その表面に親水性処理が施されているため、僅かではあるが吸水性があり、また、その表面に付着した汚れのうち、蛋白質沈積物は、通常の洗浄方法であるデイリークリーナーによる方法によっては除去することが不可能であり、酸素洗浄剤を用いることによって、はじめて除去することができる。したがって、このような部分的に親水性のあるシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズも、素材をポリヒドロキシエチルメタクリレートとする典型的なソフト・コンタクト・レンズと同様に、本件発明の前述の第一及び第二の解決課題を有するものである。以上によれば、本件発明のソフト・コンタクト・レンズは、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズのように表面に親水性処理を施したプラスチックからなるものも含むことが明らかである。ところで、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズとして現在市販されているものは、ポリシロキサニルメタクリレートを用いた東洋コンタクトレンズの製品(商品名「メニコンO2」。以下「メニコンO2」という。)やセルローズアセテートプチレートを用いた京都コンタクトレンズの製品などであるところ、メニコンO2は、水酸基を有しているため、親水性を有しており、ポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とするコンタクト・レンズと比べ程度は低いが吸水性があるから、本件発明の前述の第一の解決課題を有するコンタクト・レンズといえるし、一方、通常のデイリークリーナーによる洗浄によっては除去しえない蛋白質沈積物により、レンズ表面が白濁するという本件発明の前述の第二の解決課題も有している。また、セルローズアセテートプチレートを素材とするコンタクト・レンズも、吸水性を有し、その構造中に水酸基を有する親水性の樹脂であって、本件発明の前述の第一及び第二の解決課題を有するコンタクト・レンズである。このように、これらの製品は、いずれもその構造中に親水性基を有するプラスチック材料や、プラスチックレンズの表面に親水性基を形成することによって親水性処理を行ったものを素材とするコンタクト・レンズであって、本件明細書にいう「親水性又は部分的に親水性のプラスチック材料」に該当するから、本件発明のソフト・コンタクト・レンズに含まれる。

(二) メニコンO2等の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件明細書に明記されていないが、次に述べるとおり、本件明細書が具体的に例示しているソフト・コンタクト・レンズと均等である。

ポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とする親水性のソフト・コンタクト・レンズ、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズ及び酸素透過性ハード・コンタクト・レンズ上に見出される蛋白質沈積物の主成分は、人の涙のリゾチームから成っている。このリゾチームの分子は、十七の全電荷を持ち、寸法三〇Å×三〇Å×四五Åの楕円体であるのに対し、ポリヒドロキシエチルメタクリレートの孔の直径は八・〇ű二・六Aであり、また、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズ及び酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの孔の直径は、いずれも一一・〇Å以下であるから、リゾチームは、右のコンタクト・レンズのいずれの材料中にも入り込むことができず、これらのコンタクト・レンズの表面にのみ沈積する。右の各コンタクト・レンズに蛋白質が沈積する機構は、正に帯電したリゾチームと負に帯電したレンズ表面との電荷の相互作用によるものであって、単なる付着や吸着に比べて結合力が強く、通常の界面活性剤を成分とするデイリークリーナーによっては、右の結合を切り離すことはできない。また、多数の蛋白質分解酵素の一つであるパパインは、二一二のアミノ酸から成る回転楕円体の酵素であり、その寸法は、三〇Å×三〇Å×五〇Åであって、前記の各コンタクト・レンズの孔径より遙かに大きく、右のコンタクト・レンズのいずれの材料中にも入り込むことはできず、レンズの表面で蛋白質沈積物の除去を行う。したがって、プロテアーゼによる蛋白質沈積物除去のメカニズムは、蛋白質沈積物がみられる右のすべてのコンタクト・レンズについて同じであるから、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズも、本件明細書に明記されていないが、そこに具体的に開示されているソフト・コンタクト・レンズと均等であり、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに当たる。

7 よって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、被告製品の製造販売の差止め及び被告製品若しくはその仕掛品の廃棄を求める。

二 請求の原因に対する被告の認否及び主張

1(一) 請求の原因1及び2の事実は認める。

(二) 同3のうち、プロテアーゼが蛋白質分解酵素であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同4のうち、別紙目録二の使用対象レンズが原告主張のレンズのみに限定されるとの点は否認し、その余の事実は認める。被告製品は、ハード・コンタクト・レンズにも使用することができる。

(四) 同5及び6の事実は否認する。

2 本件発明は、ソフト・コンタクト・レンズに付着する蛋白質沈積物のみを除去する方法であるのに対し、被告製品は、その組成として蛋白質分解酵素である中性プロテアーゼのほかに、ムチン分解酵素、脂質分解酵素であるリパーゼ及び非イオン界面活性剤が配合されており、蛋白質沈積物のほか、ムチン、ムコ多糖類、脂肪、コレステロール類、化粧品、顔や指からの汚れ及びこれらの結合したものを除去することができるのであって、蛋白質沈積物を除去することのみに使用されるものではないから、被告製品は、本件発明の実施にのみ使用する物に当たらない。

3 被告製品は、ハード・コンタクト・レンズ、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの洗浄にも使用されるが、ハード・コンタクト・レンズ及び酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズには含まれない。したがって、被告製品は、本件発明の実施にのみ使用する物ではない。

4 原告は、本件発明のソフト・コンタクト・レンズには、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズも含まれる旨主張するが、次に述べるとおり、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズには含まれない。

(一) 本件発明は、第一に、親水性のソフト・コンタクト・レンズが、一五〇重量パーセントまでの水を吸収することができるという性質を有するために、他の場合には洗浄のために使うことができる組成物がレンズ内に滞留して眼及びレンズに悪影響を与えること、第二に、レンズの着用者の眼を傷つけないような普通の洗浄方法によっては取り除くことができない蛋白質沈積物がレンズの表面に付着し、徐々にレンズを不透明にし、更に、レンズが不透明になる前でも、レンズの着用者の眼に対する刺激が増加し不快の念を与えるということ、の二つの課題を解決するため、「プロテアーゼ含有水溶液」という解決手段を提供したものである。すなわち、含水性コンタクト・レンズにおける問題点の解決とコンタクト・レンズ表面に付着する蛋白質除去とを目的として本件クレームがなされたのである。しかし、コンタクト・レンズは、眼に直接適用されるものであるから、その表面に眼から分泌する蛋白質が沈積することは、ソフト・コンタクト・レンズであろうとハード・コンタクト・レンズであろうと当然のことであって、このことが本件発明の発明者によってはじめて発見されたということではない。後述のとおり特許異議の申立がなされた後、原告が特許請求の範囲を減縮した理由も、本件発明が含水性コンタクト・レンズにおける特有の問題点(洗浄剤のレンズ内滞留)を解決したものであることにある。親水性のレンズであっても含水性のないものは、レンズに洗浄剤が侵入することはないから、前記の問題は生じない。したがって、含水性のないレンズは、たとい、可撓性あるいは親水性であっても、本件クレームにいうソフト・コンタクト・レンズとはいえない。本件発明のソフト・コンタクト・レンズが含水性を有するものでなければならないことは、本件明細書に、本件発明のソフト・コンタクト・レンズについて、「親水性レンズは、水を吸収する能力が顕著で、それに伴って極めて良好な機械的な強さを持つ軟質の塊に膨潤し、……、所定の流体内に平衡させた時、形及び寸法を保持することが出来る点で、眼科に特に有用である。」(本件公報一頁二欄一一行ないし一六行)、「親水性ソフト・コンタクト・レンズが一五〇重量%までの水を吸収することが出来るという性質の為に、他の場合には洗浄の為に使うことが出来る組成物が吸収され……、洗浄剤が次第にレンズ内に溜まる。」(同欄一九行ないし二五行)と説明されていることからも明らかである。そうすると、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、含水性がないから、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに含まれない。この点に関して、原告は、ソフト・コンタクト・レンズとハード・コンタクト・レンズの分類基準を親水性の有無に求めている。しかし、エンサイクロペディア・オブ・ケミカル・テクノロジー(乙第七号証)によれば、コンタクト・レンズは、ハード・コンタクト・レンズ、フレキシブル・コンタクト・レンズ及びソフトハイドロジェル・コンタクト・レンズに分類され、ハード・コンタクト・レンズであって親水性のものも存在することが認められるところ、このような親水性のハード・コンタクト・レンズが本件クレームにいうソフト・コンタクト・レンズに含まれるとは考えられないから、親水性があれば本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに当たるとする原告の主張は、理由がない。本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズは、前記分類のハイドロジェル・コンタクト・レンズを意味するものである。

(二) 本件発明の特許出願は、すべてのコンタクト・レンズを発明の対象としてなされたが、その後特許異議の申立てがあり、原告は、昭和五五年三月六日付手続補正書で特許請求の範囲を減縮して、「コンタクト・レンズ」を「ソフト・コンタクト・レンズ」と補正し、それに伴う明細書の補正もした。したがって、右の特許請求の範囲の減縮により、本件発明の対象は、ソフト・コンタクト・レンズに限定されたのであり、ソフト・コンタクト・レンズに含まれないものを対象とする洗浄方法は、本件発明の技術的範囲から除かれたことになる。

(三) 原告は、本件発明のソフト・コンタクト・レンズは、本件明細書に具体的に示されているものに限定されず、その均等物をも含む旨主張するが、均等論の適用の根拠が不明確であり、また、その結果も不当である。原告主張の根拠は、解決課題の同一であるが、本件発明の解決課題は含水性コンタクト・レンズに沈積する蛋白質の除去ということであって、蛋白質除去一般を課題としているものではない。また、前述の補正の経緯に照らしても、均等論によって特許請求の範囲を拡張することを認めるべきではない。

三 被告の主張に対する原告の反論

1(一) 被告の主張2について

被告製品を週一回定期的に使用する目的は、毎日の洗浄では除去しえない蛋白質沈積物を除去することにあるから、たとい、被告製品がレンズに付着する蛋白質以外の汚れをも除去するとしても、そのことによって、被告製品の製造販売が本件特許権の間接侵害を構成しないことにはならない。また、本件明細書には、本件発明の方法を実施するに当たって、プロテアーゼの活性を高めるための活性剤を加えて用いる方法(本件発明(二)の方法)はもちろん、潤滑剤、緩衝剤、安定剤、殺菌剤等プロテアーゼの作用とは別個の作用を行う薬剤を同時に加えて用いる方法も、本件発明の実施の態様であり、本件発明の技術的範囲に属することが明らかにされている(本件公報三頁六欄一一行ないし三二行)。したがって、被告製品がムチン分解酵素やリパーゼ(脂質分解酵素)を含んでいるとしても、そのことによって、被告製品を用いる洗浄方法が本件発明の技術的範囲から除外されることになるものではない。

2 被告の主張3について

被告は、被告製品はハード・コンタクト・レンズにも使用される旨主張するが、ハード・コンタクト・レンズの汚れは、普通、デイリークリーナーにより容易に除去されうるのであって、その洗浄に被告製品を用いる必要性はないから、被告製品の説明書にハード・コンタクト・レンズの洗浄にも使用することができる旨記載されているとしても、現実には、ハード・コンタクト・レンズに用いられることはなく、少なくとも、ハード・コンタクト・レンズについての被告製品の使用は、社会的、経済的にみて実用的な用途とはいえない。また、被告は、被告製品は、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズにも使用しうる旨主張するが、従来、ある特許発明の方法の実施に使用する以外に実用的用途が知られていなかった物について、新たに別用途が開発された場合、間接侵害が成立しなくなるのは、その新たに開発された用途が、社会経済的にみて、明らかに別異の用途である場合に限られなければならないところ、被告製品の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズへの用途は、かかる意味での別異の用途ではない。すなわち、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、前述のとおり、部分的に親水性のプラスチック素材からなるレンズであるところ、本件発明は、通常のデイリークリーナーでは除去することができないこのレンズ面上の白濁沈積物を除去するのであるから、これと同一の被告製品の用途が、間接侵害の成立を妨げるに足りる他の用途といえないことは明らかである。

3(一) 被告の主張4(一)について

被告は、コンタクト・レンズの表面に沈積する蛋白質沈積物の除去という課題は、ハード・コンタクト・レンズについても等しく当てはまるとしているが、ハード・コンタクト・レンズについては、毎日の装用を終わってデイリークリーナーによる洗浄を行うと、他の汚れと共に蛋白質も除去され、レンズの表面は清浄なものとなるのであり、通常の洗浄により除去されない蛋白質沈積物によるレンズの白濁という問題は、ソフト・コンタクト・レンズに特有の課題である。また、親水性のソフト・コンタクト・レンズは一五〇重量パーセントまでの水を吸収する旨の本件明細書の記載は、ポリヒドロキシエチルメタクリレートという本件明細書に例示されている一つのコンタクト・レンズの素材例についての説明であって、本件発明のソフト・コンタクト・レンズの範囲を規定するものではない。

(二) 同4(二)について

本件明細書の発明の詳細な説明には、特許出願当初からソフト・コンタクト・レンズの洗浄方法が記載されていたが、その特許請求の範囲には、本件発明の洗浄方法の対象を単に「コンタクト・レンズ」と記載しており、この記載は、ハード・コンタクト・レンズをも包含するかのような不明瞭な記載であったから、原告は、特許法六四条の規定に基づき、明瞭でない記載の釈明としての補正をしたのであって、特許請求の範囲の減縮としての補正をしたのではない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一 請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証及び第二二号証によれば、本件発明(一)、(二)の構成要件は、それぞれ請求の原因2(一)、(二)のとおりであると認められる。

二 被告が被告製品(ただし、使用対象レンズの点を除く。)を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

三 被告製品が本件発明の実施にのみ使用する物であるか否かについて以下判断する。

1 前掲甲第一号証及び第二二号証によれば、(1)本件発明は、第一に、親水性のソフト・コンタクト・レンズが、一五〇重量パーセントまでの水を吸収することができるという性質を有するために、他の場合には洗浄のために使うことができる組成物がレンズ内に吸収、濃縮され、ソフト・コンタクト・レンズを眼に着用したときに放出されて、眼の結膜及び角膜の傷つきやすい組織を傷め、また、レンズ内に溜まって、寸法、色等を含めレンズの物理的な特性に影響を与えて、レンズ自体を傷つけ、汚すという結果を招くことがあること、第二に、レンズの着用者の眼を傷つけないような普通の洗浄方法、例えば、普通の塩水に浸けること又は煮沸することによっては取り除くことができない不透明又は部分的に不透明な材料(蛋白質沈積物)がレンズの表面に付着し、その材料がレンズの面上に徐々に溜まることによって、レンズを不透明にし、更に、レンズが不透明になる前でも、レンズの着用者の眼に対する刺激が増加し不快の念を与えるということ、以上二つの課題を解決することを目的として、前記本件発明(一)及び(二)の構成を採用し、これにより、右の目的を達成したものであること、(2)本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズは、親水性又は部分的に親水性のプラスチック材料を素材とするものであり、その具体例としては、弾力的で軟らかく透明なヒドロゲルの外観を持つ水性反応媒質中のポリヒドロキシエチルメタクリレートの三次元的な親水性重合体、又はシリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料で作られたレンズがあり、その利点は、いずれも軟らかさ及び光学的な適性を有するレンズであること、また、本件発明の実施例において使用されているバウシュ・アンド・ロム社のコンタクト・レンズも、前記のポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とする軟らかいレンズであること、更に、本件明細書には、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズが軟らかいレンズであることの記載はあっても、硬いレンズをも含むことを示唆するに足りる記載は一切存しないこと、以上の事実が認められる。また、成立に争いのない甲第七号証の一ないし七によれば、わが国においては、一般に硬いレンズをハード・コンタクト・レンズ、軟らかいレンズをソフト・コンタクト・レンズと分類していることが認められ、そして、成立に争いのない乙第七号証及び乙第一四号証の一によれば、一九七九年(昭和五四年)に米国で発行されたエンサイクロペディア・オブ・ケミカル・テクノロジー第三版第六巻では、「コンタクト・レンズは、一般に、ハード・レンズ、フレキシブル(可撓性)・レンズ及びソフト・ハイドロジェル・レンズに分類することができる。これら三種のレンズのすべてに酸素透過性のものがあり、また、ハード及びフレキシブル・レンズには疎水性のレンズがある。」としたうえで、ポリメチルメタクリレート、セルロースアセテートブチレートはハード・レンズに、シリコーン・レンズはフレキシブル・レンズに、ポリヒドロキシエチルメタクリレートはソフト・ハイドロジェル・レンズにそれぞれ分類されていることが認められる。このように、米国における分類は、必ずしもハード・コンタクト・レンズとソフト・コンタクト・レンズの二分類ではないが、米国においても、ハード・レンズは、硬い、可撓性の無いものを指し、軟らかく可撓性のあるレンズは、フレキシブル・レンズ又はソフト・ハイドロジェル・レンズに分類されていることは明らかであって、これら二種のレンズがわが国で一般にいうソフト・コンタクト・レンズに相当するものと認められる。以上によれば、本件発明の「ソフト・コンタクト・レンズ」は「ソフト」という言葉が意味するとおり、軟らかいレンズを意味するものであって、硬いレンズはこれに含まれないものと認めるのが相当である。

2 被告製品が酸素透過性ハード・コンタクト・レンズにも使用される洗浄剤であることは、当事者間に争いがないところ、前掲乙第七号証によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一種であるセルローズアセテートブチレートを用いたコンタクト・レンズは、ハード・コンタクト・レンズに分類されるものであることが認められ、また、成立に争いのない甲第一六号証の一ないし三によれば、東洋コンタクト・レンズから販売されている酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一種であるメニコンO2にしても、ビッカース硬度がDryで八・六、Wetで七・六である(ハード・コンタクト・レンズは、Dryで二三・〇、Wetで二一・三である。)のに対し、親水性のソフト・コンタクト・レンズ及びシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、軟らかすぎて硬度の計測が不能であることが認められる。してみれば、メニコンO2等の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、硬いレンズであって、ハード・コンタクト・レンズに分類されるべきものである以上、本件発明にいう「ソフト・コンタクト・レンズ」には当たらないものというべきである。また、前掲甲第一六号証の一ないし三によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、酸素透過係数がポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とするソフト・コンタクト・レンズと同程度に高く、形状が硬いため、より角膜の代謝を阻害しないコンタクト・レンズとして、商品化されて以来高い評価を得ていることが認められ、右認定の事実によれば、被告製品の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズへの用途は、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な用途であると認めることができる。したがって、被告製品は、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズには含まれない酸素透過性ハード・コンタクト・レンズにも使用される洗浄剤であるから、この点において本件発明の実施にのみ使用される物ということはできない。この点に関して、原告は、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズの素材として本件明細書に開示されているシリコーンにより作られたシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、表面に親水性処理が施されているため、僅かではあるが吸水性があり、また、表面に付着した汚れのうち、蛋白質沈積物は、通常の洗浄方法であるデイリークリーナーによる方法によって除去することが不可能であり、酵素洗浄剤を用いることによって、はじめて除去することができるのであって、このような部分的に親水性のコンタクト・レンズも、原告主張の本件発明の前記第一及び第二の解決課題を有するものであるところ、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズとして現在市販されているポリシロキサニルメタクリレートを用いたメニコンO2及びセルローズアセテートブチレートを用いた京都コンタクトレンズの製品も、いずれも表面が親水性を有しており、ポリヒドロキシエチルメタクリレートを素材とするコンタクト・レンズと比べ程度は低いが吸水性があり、本件発明の第一の解決課題を有し、かつ、通常のデイリークリーナーによる洗浄によっては除去しえない蛋白質沈積物により、レンズ表面が白濁するという本件発明の第二の解決課題も有しているから、前記のシリコーン・ラバー・コンタクト・レンズと同じく本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズに含まれる旨主張する。しかしながら、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズは、前説示のとおり、軟らかいレンズを意味するものと解すべきところ、成立に争いのない甲第一三号証の一ないし三及び前掲甲第一六号証の一ないし三によれば、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、軟らかいレンズであると認められるのに対し、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、前説示のとおり、硬いコンタクト・レンズであるから、両者を同列に論じえないのみならず、また、前掲甲第一号証及び第二二号証によれば、本件明細書には、本件発明にいうソフト・コンタクト・レンズの素材として、ポリヒドロキシエチルメタクリレートとシリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料が挙げられているが、これらの素材で作られるコンタクト・レンズについて、「こう云う親水性ソフト・レンズが一五〇重量%までの水を吸収することが出来ると云う性質の為に、他の場合には洗浄の為に使うことが出来る組成物が吸収され、濃縮さえされ、ソフト・コンタクト・レンズを目にはめた時、後で放出される。この放出は吸収よりずっと遅いことがあり、その為、洗浄剤が次第にレンズ内に溜まる。このように溜まったことにより、遂には寸法、色等を含めてレンズの物理的な特性に影響が出る。これはコンタクト・レンズ自体を傷つけ又は汚し、或いは結膜及び角膜の傷つき易い組織を傷めると云う有害な結果を招くことがある。硬質コンタクト・レンズは、目立つ程の水を吸収せず(即ち〇・〇一乃至〇・四%)、従って硬質コンタクト・レンズの分野では有効な防腐剤(Preservatives)を使うことによって問題は生じない。」(本件公報一頁二欄一八行ないし三四行)と記載されていることが認められ、他方、前掲甲第一三号証の一ないし三によれば、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、表面が親水性処理されているだけで、中の素材が疏水性であることが認められ、以上認定の事実によると、シリコーン・ラバー・コンタクト・レンズは、本件発明のソフト・コンタクト・レンズの素材として本件明細書に開示されているシリコーンにより作られたものであり、かつ、前認定の本件発明の第二の解決課題を有するとしても、親水性処理されたレンズの内側に洗浄剤が吸収されるというようなことはほとんど起こりえないのであるから、前認定の本件発明の第一の解決課題を有するコンタクト・レンズであると認めることは困難であり、更に、前掲甲第一六号証の一ないし三によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの一つであるメニコンO2は、素材が疎水性であって、表面が親水性処理されているものの、その吸水率は、本件発明のソフト・コンタクト・レンズの素材であるポリヒドロキシエチルメタクリレートが四三ないし六七重量パーセントであり、ハード・コンタクト・レンズが一・三重量パーセントであるのに対し、右ハード・コンタクト・レンズの吸水率とほぼ等しい一・四重量パーセントであることが認められ、右認定の事実によると、少なくともメニコンO2等の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、吸水性のソフト・コンタクト・レンズとは、この点で全く異なるのであって、洗浄液がレンズ内に吸収され、眼の組織を傷め、また、レンズの物理的な特性に影響を与えるという前認定の本件発明の第一の解決課題を有するコンタクト・レンズとは異なるものであると断じざるをえない。以上によれば、原告の前記主張は、採用することができない。また、原告は、(1)本件発明のソフト・コンタクト・レンズは、本件明細書に具体的に示されているものに限定されず、その均等物をも含む、(2)従来、ある特許発明の方法の実施に使用する以外に実用的用途が知られていなかったものについて、新たに別用途が開発された場合、間接侵害が成立しなくなるのは、その新たに開発された用途が、社会経済的にみて、明らかに別異の用途である場合に限られなければならないところ、被告製品の酸素透過性ハード・コンタクト・レンズへの用途は、通常のデイリークリーナーでは除去することができないこのレンズ面上の白濁沈積物を、本件発明と同一の方法により除去するものであるから、別異の用途ではなく、間接侵害の成立を妨げるに足りる他の用途とはいえない旨主張するが、前説示のとおり、本件明細書に実施例として開示されているポリヒドロキシエチルメタクリレート並びにシリコーン及びその他の光学的に適当な可撓性材料で作られたレンズは、いずれも軟らかいレンズであるのに対し、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは、硬いレンズであるから、そもそもこの点において本件明細書に具体的に示されたものと均等とみることは相当ではない。また、前掲甲第二号証及び乙第一二号証の一によれば、原告は、本件発明の出願公告後の昭和五五年三月七日、本件明細書の特許請求の範囲について、従来「コンタクト・レンズ」の洗浄方法について特許を求めていたものを「ソフト・コンタクト・レンズ」の洗浄方法と補正したことが認められ、他方、前掲乙第七号証によれば、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズの存在は、昭和五四年には一般に知られていたことが認められるのであり、右認定の事実によれば、当時ハード・コンタクト・レンズに分類される酸素透過性ハード・コンタクト・レンズが存在したのに、右の補正は、あえて特許請求の範囲の「コンタクト・レンズ」を「ソフト・コンタクト・レンズ」と補正したのであるから、たとい、右の補正が、原告主張のとおり明瞭でない記載の釈明であるとしても、右補正により、ハード・コンタクト・レンズに分類されていた酸素透過性ハード・コンタクト・レンズは本件発明の対象とするコンタクト・レンズには含まれないことを明らかにしたものといわざるをえない。したがって、原告の右主張は、いずれも採用するに由ないものというべきである。

四 以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

特許公報、補正書〈省略〉

目  録

一 左の組成を有するコンタクト・レンズ洗浄用錠剤

1 ムチン分解酵素(放線菌Streptmyces属起源) 二・九〇%

2 中性プロテアーゼ(糸状菌Aspergilus属起源) 二・一七%

3 リパーゼ(不完全菌Caudida属起源) 〇・三七%

4 非イオン界面活性剤 一・〇〇%

5 EDTA―二Na 一・四五%

6 食塩 五〇・六八%

7 ホウ酸 一四・四八%

8 ホウ砂 一八・一〇%

9 ビヒクル 八・四九%

(商品名 バイオクレンファイブ)

二 使用対象レンズ

ソフト・コンタクト・レンズ、酸素透過性ハード・コンタクト・レンズ

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